翠嶺クラフティング

個人作家、上住断靱の活動記録

「仕上がった」話

 3年ぶりぐらいに勤め先へ早く行くのを止めた。前回は定年退職する前のボスが「早く来んな」と行った時だ。この人は労働基準法ギリギリをいく人で、最後まで私に通報まで至る言質をとられなかった。そのスタンスを今も尊敬している。
 今回の理由は時間外手当が出ていないことはもちろん、新しいビッグボスがそんなに早く来ないこともあったからだ。お家で過ごすことが出来ない前任のように、早朝出てくることはなく、お出迎えの儀式は必要なくなったのだ。加えて、7月の人事異動によってオフィスの入口の狭い受付におっさんが5,6人ひしめき合っている状態になっており、馬鹿らしかったこともある。
 直の上司にもうこの時間には来ないことを伝えた。彼も無意味を感じていたから、小言もなかった。
 私は定時になったら、ち回りの戸締まりをしてさっさと帰っている。
 朝も通常出勤となった今はいよいよ基準法内で仕事をするようになったといえよう。ここまでくるのに12年かかった。
 勤め先では定時出勤、定時退社は今でも妬みや恨みの対象である。「何の仕事もない人」と見なされるのだ。ただそれは狭い世界でのこと。そこを気にしてヤフーニュースをタラタラ見て時間を潰しているのは、自分の人生を潰しているのと一緒である。
「飛ばされて環境が変わるのでは?」
 ということもあろう。
 そうなりにくいように、人が面倒くさがる仕事を引き受け、自分の知識として蓄えていく。いつしかノウハウを持っているのは自分だけになる。仕事を握りこむことはなく、飛ばしにくい人間になるのだ。
 こうして勤め先ではクソッタレな存在になったものの、できた時間は無駄にしない。やりたいこととかを現実に進めていくことに使っていく。病気のせいもあったけれど、もう傷のなめ合いであったり、自己を慰めるだけのことにうんざりしてきた。リスクを考えながら勝負に出る時だ。