翠嶺クラフティング

個人作家、上住断靱の活動記録

第二十六回文学フリマ東京 参加のお知らせ

大坂文庫は第二十六回文学フリマ東京に参加する。
ブース番号はイ-21
今回はモノは書き上がっていたものの質を優先して新刊はなし。
既刊のみだけれど、手に入れていない方も多いと思うので、この機会に手に入れて欲しい。
最近、活動がしょんぼり気味だったので、熱を入れて宣伝もやっていく。

忍嚆矢(忍者歴史小説短編集)
地謡(忍者歴史小説短編集)
倭国合戦譚(合戦テーマ歴史アンソロジー)
あの心地を求めて時速六十キロ(テーマ偏愛 小説アンソロジー)

c.bunfree.net

結婚1周年

4月14日、入籍してからまる一年経った。
未だ隣に妻が寝ていることが新鮮であり、たまにしか言わない寝言も楽しみの一つである。そして夫婦というものもいまいちよく分かっていない。何か人に頼むことが苦手な私は未だに言い出せないでいることも多々ある。
乗り越えなければいけない困難もあるとのアドバイスを思い出す。これから共に過ごす長い間、色々なことに合うのだろう。もう少し話すべきなのだな、等々、反省しきりで、妻には感謝しかない。
未だに何者にもなれぬ私だが、せめてそれなりに健康で過ごそうと思うのであった。

心を落ち着けろ

昨日、会社の帰りに胃酸が逆流した。
久しぶりのことで懐かしい痛みであったが、これが悪化し、夜は悶えた。しかし、あまり悶えると妻の睡眠を邪魔してしまう。
私はベッドから這い出すと寝室を出て、冷蔵庫の前で横になった。
痛みで寝付けず、そこでも悶えた。何度か救急車を呼ぼうかと思ったほどだ。その内にグンという感触がして、トイレに駆け込み少し嘔吐した。
最近、会社でイライラし過ぎたせいかもしれない。仕事中はもっと心を穏やかに体をゆっくり動かさなければと反省した。

普段なら休んで病院へ行くものの、諸々立て込んでおり、休むわけには行かなかった。結果としていつものように「休めばよかった」と後悔することになるのだが。
朝早くから開いているドラッグストアで親切なおばさんに薬の説明を受けて、良さそうなものを買って飲む。ドーピングしながらの一日が始まった。
歩くのも普段よりゆっくり。振動で痛いから。
人の挙動を見ない。不合理にイラッとするかもしれないから。
相手の怒りは右から左へ受け流し、FF14をプレイ中のように、姿勢を正して心を落ち着けろ。
そう自分に言い聞かせた。
しかし、暗算をしている最中、机に領収証がポンと机に置かれ、「これ○○に渡しといてくれ」と不意打ちがきた。この領収証はその○○から昨日、送られて来たブツではないか。私が少し固まっていると、「分からんのなら聞け!」と怒鳴ってきた。
いきなりのことで何のこっちゃさっぱり分からなかったが、もう少し間を置いてから、その領収証で経費を切って、お金を○○に渡せという意味かと理解した。間抜けだどうのこうのと怒鳴る輩に頭突きをしてやろうかと思ったが、胃がキュウとしたので慌てて考え直した。人が暗算中に声をかけるほうが間抜けではないか。
それらを切り抜け、帰るべく電車に飛び乗り、つり革に掴まって一息つく間もなく、脛に感触がある。
満員電車で足を組んでいる野郎がいた。
しかもご丁寧に足でリズムをとっていて、私のスーツに景気よく泥をつけている。
私は胃が叫ぶのもかまわず、液体胃薬を全部開け、その男に浴びせた。金切り声を上げて、組んでいる足を正しい位置へと直してやり、景気づけに股間へ残りの胃薬をぶっかける。足を戻すときに私のスーツを汚した靴はひっぺがした。
「お前は悪くない。この靴が悪いんだ」
私は窓を開けると、靴を力一杯投げた。スマホでお気楽な連中が写真や動画を撮っている。靴を片方だけ履いた男は間抜けな口を開いていた。
靴は対抗電車に跳ねられ、平野川へと消えた。

千日前の肉八閉店

何事にも終わりがある。
先日、友人と弟の三人で谷町の肉八で焼き肉を食べていた。弟と年末、行こうとしていた焼き肉がどこも満員だったことのリベンジである。
そこで、千日前の肉八が閉まることを知った。諸々の理由があり、店長の体調も悪いことも重なっての閉店らしい。
私が幹事となり焼き肉屋に行くときは必ずといっていいほど千日前の肉八だった。谷町が出来てからは近いこともあって、そっちに行くようになったが。炭火焼きの店で、内装はそれなりに雰囲気があるものの、騒がしくない。穴場で旨い焼き肉屋であった。友人や職場で仲のいい人たちを連れて行ったものである。
焼き肉を食べているところで「明日閉店」と聞いたもので、こちらにも財布に余裕がない。残念ながら最後に無愛想な店長の顔を見ることは出来なかった。
終わりというものはいつも突然くる。
終わらせる側は多くのプロセスを経ているのだが、聞く側はそうではない。ずっとあるというものはない。だからこそ機会がある時は逃していけないのだ。
私も永遠に作品を書けるわけではない。金がなければ本を印刷もできない。だからこれを読んだあなたは私の本を買って、私を作家として延命させるべきである。

30分「は」休め

かつて一緒の店で働いた上司が休職している。彼は以前にも精神的に参ってしまい、数年ぶり何度目かという甲子園のような休職だが、一度病むとどうにも出来ないことは私も分かっており、心配している。
その上司と働いていた時は、体重が10キロ落ちていた時で社会人二年目の一番酷い時であった。どうにか色々とフォローしてくれたが、既に発病済である彼は今思えば気分の浮き沈みが激しい人だった。
そんな上司が私に一言、「昼休みは30分は絶対休め」と言ってくれた。
「その間は仕事のことは一切考えず、ゆっくり過ごせ。俺がしてやれるのはこれぐらいだけや」
当時、私は弁当を作っていたので、食べて10分。すぐに職場に戻っていた。他の人もそうしていたので特に問題は感じていなかったが、上司の言葉に従い、30分休んでいた。弁当をゆっくり食べて15分、後は葉巻を飲んで15分過ごしていた。
今は真っ白なクロスに張り替えられて、禁煙になった会議室の換気扇の下、ぼんやりと口を開けて煙を吐いていた。本でも読めば良かったのだが、そんな余裕はなかった。私の葉巻は噂になって、「変人」呼ばわりの理由になったが、私の煙草は嗜好品。それに30分を過ごすには丁度良いアイテムだった。
正に狂っている職場だ。その数年後、私も休職する身になった。職場の体質はそれほど変わっていないが、私は変わった。煙草ももう吸っていない。
新年度、新社会人に言いたいことを言う人がおり、それを否定する人もおり、どちらの気持ちも分かるが、所詮相手は他人だ。
私が公に言うことは何もない。ないけれど、配属前の新入社員に教育した私は、彼らには最低限の話をした。
一連の様子を見ながらふと、30分「は」休めという話を思い出したのである。

若きウェルテルの悩み

かつて「帰宅したら弟がニート」という作品を書いた時に、母から言われたことがある。実のところこの小説は三割ほど実体験であった。それまで、私が体験したことを書いていない私は些か躊躇したのだが、母から「若きウェルテルの悩みのようやん。怒りのままに書いたら?良い物が出来る場合もあるし」との適当な発言を真に受けて書き上げた。
結果、怒りのまま書き上げられることはなかったが、私の門出作品として大きな存在となる作品になった。
今日、書くのはこの作品で起こった逆のことである。
先日、「私で役に立てることがあったら言って下さい」という言葉を頂いた。この言葉は非常にありがたい。何より自分のことを信用してくれている証であり、言った本人が人は一人で出来ることは限られているということを分かっている人物だという証明であり、言われた私も信用することができる。
誰しも駄目な部分があり、素晴らしいものを持っている。
それを押しつけ合わない心を私は大事に思っている。
「帰宅したら弟がニート」では、見事に寄りかかりの話であった。あの作品があることで私はいつも立ち返ることができる。
人は身勝手だ。
しかし、身勝手を出し合って助け合えることもある。但し人は限られる、と。
実際の「ウェルテルの悩み」はもっと純粋で盲目な作品である。

初めてのひなまつり

男兄弟しかおらぬ上住家ではひなまつりをしたことがない。母も自分のためにひなまつりをすることはなかった。恐らくひなあられが嫌いだったのだと思う。
今年は妻から「ケーキは食べていた」というので、ジョリジョリと髭を剃って、近所の近鉄百貨店まで行った。妻は留守番だ。女は化粧やら何やら準備で大変であるから、簡単な買い物なら男が行ったほうが楽である。
余談ながら化粧なしでもいいではないかと思った男がいるならば、それは妻に「女を捨ててもいいよ」と言っているのも同義なので口にしないほうがいい。口にした途端、山の神は寝そべっているトドと化してしまうだろう。
雨は既に止み、花粉症の薬を飲み忘れていたものの、ぐずぐずにならずに済んだ。思いの外、肌寒かった。
着いた百貨店には人が多く、ケーキ屋で少し待った。
ひなまつり限定のものにするか、普通のものを二つ買うか迷った挙げ句に「初めてひなまつりするからなぁ」と限定のものを買った。中々の値段であった。こんな性格だから金が貯まらないのだ。容赦なく右往左往する自転車から、ケーキの箱を庇いながら家を目指す。箱にぶつけたら、自転車から引きずり下ろしてやると気合を入れていたせいかすぐ脇を通る自転車はなかった。大阪は壊れ物を持って歩くのに、特別気を遣う場所である。
無事帰って「でっかい方を買った」と妻に言うと、特に怒られることもなかった。
「ひなまつり」と書かれたチョコレートプレートは妻にやって、自分は兎型のを二つ貰った。

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