大坂文庫

個人作家、上住断靱の活動記録

「楽園」感想

「楽園」犬尾春陽著
ジャンル:小説
第六回文学フリマ大阪にて購入
価格500円

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前回に引き続き表紙はシンプルだ。こういった感じの表紙が好きか?と言われたら違うと答える。たまたま重なっただけのこともあるし、絵が描ける人を仲間に持っているなど、書き手の条件によっても変わる。ただ敢えてこの形態を採用しているならば、書き手には相当の自信があるといえる。犬尾春陽にはそう思わせる力がある。
初めて書き、初めて文学賞の一次選考を通過した時の作品らしく、最新のものではないが、頷けるほど読み応えがあった。
彼女曰く「大切なものが詰まっている」というこの小説は一言で言えば「女の子の本」だ。私が感情移入しにくいところもあった。それはつまらないということではない。完全なる女子の世界。即ち全く知らない世界だったことだ。
人生に行き詰まった主人公がたまたま出合った『楽園』で半年を過ごし、そのまま「女の子」として生きていくことも出来るが、「女」になることを選択する。それは『楽園』をそのまま完璧な『楽園』として残すことにもなると主人公は考えた。
普通の環境から切り離された『楽園』に入ることは、一種の神隠し的なものを感じる。しかし、そこから出ることは自由で最低限の決まりを守れば幸せに暮らすことができた。勉強ばかりであった主人公がそこで得たものは、自己の肯定や気ままに過ごすことなど普通の人が持っていて、彼女にはないものであった。
『楽園』を出た後、主人公は勉強することにも意味を見出す。現実に帰ってきて、もう戻らない。危うい土台のその場所は彼女の中で永遠になったともいえる。
「夜遊び、してきた」
と戻った主人公は言う。夜明けを迎えたとよく分かる一言に読者は安堵する。
犬尾春陽の作品で安心できることは救いがあることだと思う。