大坂文庫

個人作家、上住断靱の活動記録

過剰便所掃除

 掃除のおばちゃんがオフィスを綺麗にしてくれるところはたくさんあるだろう。
別の仕事をしてくれる人がいて、オフィス内は自分の役目を全うできる社員で満たされるわけだ。おばちゃんがいなければ、自分たちでオフィスを綺麗にするしかない。

 ところが、世の中には掃除のおばちゃんを雇いながら、掃除をさせず、社員の手で掃除をする「聖域」を設けた会社が存在する。曰く、掃除のおばちゃんなんぞ信用できるか、社員にやらせたほうがいいということだ。
 その「聖域」は役員用のトイレである。
 ここを役員が帰った後、掃除をする。その後、朝来た者が掃除をする。
 そう、このトイレは誰も使用してない空白の時間を挟んだ後に掃除をするのだ。義務教育では学べない不思議がここにある。
 掃除後は中間管理職が足跡を残さぬよう、つま先立ちで中に入りチェックをする。過剰便所掃除だ。
 しかし、私だけが知っていることがある。
 役員が帰ってから掃除をする男は白のタオルで便器を拭き、緑のタオルで手洗い場と鏡を拭く。
 朝、掃除をする男は緑のタオルで便器を拭き、白のタオルで手洗い場と鏡を拭く。
 打ち合わせ不足、ここに極めり。
 なぜ知ったかは省略しよう。真実を知った私は役員用に作られた煌びやかなトイレが魔界にしか見えなくなった。
 その魔界は良い設備を持つ愛しさと、サラリーマン社会の切なさと、虐げられた社員の心強さを私に与えてくれる。