大坂文庫

個人作家、上住断靱の活動記録

六十年前の創作同人

熱中症気味で胃からこみ上げてくるものを我慢し悶えていると上司から「定期預金を取って来い」と催促の電話が入る。

私は「はいはい、わかりやした」と適当な返事をして少しでも助けてくれそうな客を数軒あたった。こういう時の金融マンは「十万円でもいいから定期して」と頼む。「何が十万円だ」と呆れる人も多いかもしれないが、定期預金の最低額というのは十万円だ。誰もが持っている額ではなく、積み立てるか普通預金に残しておくしかない。いい歳の人は大体これぐらい通帳に入っているので勧誘もしやすい。

十万円最低はおかしいと思った方は積み金をお勧めする。私が説明に伺おう。

「十万円でいいから助けて欲しいねん」

神妙な顔をして祖母とほぼ同年齢の客に頭を下げると中に通してくれた。「ああ、なんとかなった。帰ったら旨いビールが飲める」とほっとしたところで、何がどうしたのか本の話になった。

私が「小説を書いてます」と告白すると「それって同人か?」

とぱっと客の顔が明るくなった。

曰く、「夫と出会ったきっかけが同人」だったらしい。「文学フリマから始まる恋がある」が昭和年間に実在したわけだ。私の方が驚いた。

「女の子を一人連れてくる」という未来の夫と客の兄が交わした条件の下、よくわからないままに連れられた客詩や川柳の会に出席したという。

馴れ初めの話もそうだが、その時の創作文芸同人の様子も垣間見られて興味深かった。その頃の大阪で活動していた同人の男たちは女に飢えていたということも。

上司に叱られずに終わり万々歳だ。

 

現在では連れてこずとも女の子はいるが、それで飢えずに済むかどうかはまた別の話。